SMAPに求めたかったもの
解散報道が出てから約10日。
そしてあの会見からは5日が過ぎた。
スマスマのあの生放送は、こんな田舎の小さな会社にも到達する波を立てている。
昨日のお昼すぎのこと。職場の、もうすぐ還暦を迎えるくらいの年齢のおばさんと、危うくけんかになるところだった。
「あんな汚い事務所に戻ったSMAPをこれ以上応援できないんだけど」
わたしの顔を見るなりその人は言った。苦虫をかみつぶしたみたいな顔だった。鼻息が見えるかと思った。とにかく息巻いていた。いやいやいや、なによ、突然。あなた、なに目線?と思わず言いそうになった。その人は別にファンでもないし、お茶の間でジャニーズのいろんなグループを見て楽しんでいるだけのおばさんである。悪いひとではないが、ミーハーなところもあって、テレビや雑誌の情報をすべて鵜呑みにする、ほんとうに「ふつう」の人だ。
面食らった。別に応援するかしないかは自由ですけど!と言いたかった。ちょっとだけ、カチンときた。彼氏や家族の悪口を言われたわけでもないけれど、やはりSMAPのことを言われたら、いくらどうでもいいおばさんの口から出た感情的な言葉だとしても、カチンとくる。
しかも時期が悪い。
応援できないということばの向こうには、絶対にあの会見があり、この騒動があるからだ。悲しいかな、いまのわたしはそれを受け入れるだけのキャパを持ち合わせていなかったようだ。そういう風に受け止めるひともいるんだなと思ったら猛烈に腹が立った。他人のことながら、ただくやしかったのだ。
しかし話を進めていくうちに、ある思いが湧きあがってきた。彼女の言い分はこうだ。
- お世話になった育ての親について行けばよかったものを、キムタクが裏切った。
- それがなければ独立して万々歳だったのに。
- あんな顔するくらいなら 解散すればよかった。
そうしてこう続けた。
「なんで正義を貫かなかったの?」
その人は潔癖なほどの正義を振りかざすような人だった。その言葉のあとに続いたのは「SMAPなのにさ」というものだった。理想は誰の中にもある。だけど人はいつも、流動的に諦めながら生きている。ふと我に返ってこんなはずじゃなかったと思うことだって少なくない。いつの日か、現実というものは、子供のころに描いていた未来よりずいぶんと世知辛いものだと知ってしまう。うまく立ち回るためにはカッコ悪くたって理想を捨てなければいけないこともある。カッコよく生きていたいと願う反面、きれいごとだけでは生きていけないと知り、仕方ないと割り切りながら生きる。それはもう、良い悪いなどの言葉では言いあわらすことはできないとわたしは思う。
でも、憧れの人にはそうであってほしくないという希望がつきまとう。希望というよりも、そう信じて疑わない。人は、自分ではどうにもならない理想を、自分以外の人に求め、そしてそうあるべきだと強く願う。クリーンで人気のある芸能人であればあるほど、人は到底かなわない夢を託そうとし、人はそこに夢を見る。ただテレビの中にいるというだけで、同じ人間だということも忘れて。
今回のSMAPの件で、多くの人は、SMAPに理想を求めていたのだろう。諦めながら生きる現実の中で、SMAPという巨大なグループに思いを馳せた。SMAPだったらもしかしたら何かやってくれるかもしれない。
SMAPなら変えられるかもしれない。
SMAPは、理想と現実のはざまで生きる人々の希望だった。
だから、その人の言わんとしていることは分からなくもない。わたしにもそういう気持ちがあったことは確かだ。SMAPが独立するかしないか、問題はそこではなく、SMAPだったら誰もが納得する理想の回答をしてくれるのではないか、という思いがわたしの頭には確実にあった。あの会見がショックだった理由の一つが、理想とかけ離れた現実を見せられたからだ。
「SMAPならヒーローになれる」
という願望がその人の中で打ち砕かれた瞬間だったのだろう。その人に限らず、多くの人の中にそういう感情があったと思う。裏切られた、という気持ちすらあったかもしれない。空想で描かれる世界のような理想を、おそらく期待していた。しかしあの会見が見せたものは、おそろしいほどの現実だった。いつも、嫌でも実感している現実が、まさかSMAPから放たれるとは。それはとてつもなく大きな諦めを受け入れなければならないことを意味した。あまりにも残酷な現実に、大きな落胆を覚えずにはいられなかった。
その人の怒りにも似た乱暴な言葉たちは、SMAPに対してというよりは、“SMAPですら理想の世界を生きられないという絶望”からくる諦めだったのではないだろうか。
まるで自分のことのように鼻の穴を膨らませて持論を展開する彼女を見ながら、わたしはぼんやりとそんなことを考えていた。
追伸:
けれどわたしは、SMAPに未来を見てるんだよね。
つまりは単純に。
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